その他の症例

修復物と歯周組織の反応

かぶせ物やつめ物を入れた後、それが歯周組織も含めて良好な状態を維持できるかどうかは、もちろん患者さん自身によるプラークコントロールも重要ですが、歯科医師の治療に依存する部分も大きいかと思われます。
保険治療で使用する金銀パラジウム合金、硬質レジン前装冠、ハイブリッド冠などの修復物は、どうしてもその材質の物的特性から限界があり、致し方ないところもありますが・・・。

最近はジルコニアオールセラミックスがどこの歯科医院でも多く使われるようになってきました。
従来のセラミックスはどうしても割れてしまったり、接着の操作性が難しかったり、患者さんも歯科医師も困惑してしまうケースが多々ありましたが、ジルコニアはまず割れることがありませんし、操作性も容易なので、歯科医師も患者さんに安心して勧めやすいという背景があるようです。

■写真1


3ヶ月前に他の歯科医院さんでジルコニアオールセラミックスを入れたが歯肉からの出血が止まらないので歯周病の治療をして欲しいとのことで来院されました。
その歯科医院さんで「歯磨きの仕方が悪い、もっとしっかり磨きなさい」と言われて、頑張って磨いているけど出血が減らないとお悩みでした。


■写真2


裏側を見てみると、セメントがたくさんはみ出ています。
レントゲンの所見と、またマイクロスコープで歯周ポケットの中をのぞいて見ると、たくさんのセメントが歯周ポケット内に溢れ出ていて、また形成ラインが「生物学的幅径」を侵害して滑らかではなくガタガタに設定されていて、かぶせ物自体の適合性に問題があるのが分かりました。
患者さんに歯周病の治療(今回のケースでは歯周外科手術まで)が必要であること、かぶせ物もやりかえないと根本的な解決はできないことをお話ししましたが、3ヶ月前に治療したばかりでお金が無いので、もうしばらく経ってからやりかえたいとのことでした。


■写真3


同じ患者さんの臼歯部のジルコニアオールセラミックスです。
ここからも出血する、歯間ブラシが通らないとお悩みでした。
マージンからセメントがはみ出ていて、歯肉の炎症が強く出ています。
このままでは短期間のうちに、中が虫歯になって歯自体が長持ちしないと思われます。
「やっぱり値段が安ければいいというものではないんですね・・・。」とおっしゃっておられました。

*この患者さんは、あちこちの歯科医院さんに「セラミックスいくらですか?」と電話して、治療費の安い医院を探したそうです。
患者さんの中には「どこの歯科医院もだいたい同じような治療をしてくれるだろう。それならば1円でも安い方がよかろう。」と思っている方が意外と多く、しかし歯科治療の自由診療料金は電化製品の料金とは意味が違い、どこで治療しても(買っても)同じという訳ではないと思われます。


■写真4



他の患者さんの歯です。
4ヶ月くらい前に他医院さんでジルコニアオールセラミックスを入れたが臭いがしたり、咬むと痛いので診て欲しいとのことで来院されました。
ジルコニア自体がマージンを超えて大きくはみだしていたり、セメントがはみだしていたり、一部露出している歯根には抜歯になるほどの大きな虫歯ができていました。
こういうケースで一番悩むのは、患者さんにどうお伝えしたらいいのだろうかということです。
安易に前医の治療結果を否定することは躊躇しますし(前医の先生も一生懸命やった結果でしょうし)、しかし実際に悩んでいる患者さんが目の前にいるわけです。
この患者さんは抜歯になるという深刻な状態だったので、大学病院に仲介に入ってもらい診てもらうことになりました。
大学病院の検査の結果、ジルコニアをかぶせている数本が抜歯ということになりました。
現在、「もう終わったことは仕方ないから前向きに頑張っていきます。」と大学病院で抜歯をしてインプラント治療を受けられています。


■写真5



また別の患者さんです。
やはりジルコニアと歯質のマージンはセメントで埋め尽くされています。

いくつかジルコニアの不適症例を紹介しましたが、これらは単にセメントを取り残しているのではなく、ジルコニアオールセラミックスの適合が悪く形成ラインにぴったりと合っていないために、「セラミックスが浮いて隙間が空いているところをセメントで埋めている」という状態です。
ジルコニアにしろ、セレックにしろCAD/CAMという方法で作製されます。カメラで歯やあるいは模型をスキャンして作製します。
なので、ブロックを削り出すミリングマシーンのドリルが追従できないような歯の形成をしていたり、あるいは印象模型自体の精度が低ければ適合のいいセラミックスは作製できません。
その精度が低いものをお口に接着させるので、たくさん空いている隙間にセメントがたまったり、はみ出しているのです。


■写真6








①精度が高いセラミックスを作るためには、セラミックスの形成ルールを守る必要があります。銀歯を入れる形成法とは違います。
②CAD/CAMの場合、できればマイクロスコープを使って、マイクロがなければ最低でもルーペを使って、ミリングマシーンのドリルが追従できるような丁寧で滑らかな形成を行います。
③生物学的幅径を意識してマージンの設定をします。特に前歯でブラックマージンを恐れて必要以上に歯肉縁下深くにマージンを設定しないようにします。
④可能ならば3Dカメラで直接歯牙を撮影して「直接法」で作製する。設備が院内に無く、無理ならば精度の高い印象採得を行い精度の高い模型を作る、当然歯肉圧排も必要です。

これらは私自身も日々気を付けていきたいと思っていることで、さらに患者さんが御期待される自由診療に近づくよう努力してまいります。


セラミックスと接着

■写真1

つめ物やかぶせ物には色々な種類があり、咬み合わせ(対合歯との関係)、くいしばりや歯ぎしりはしていないか、虫歯の大きさ、患者さんの審美的な要求度、経済的理由などにより、歯科医師・スタッフと患者さんと相談しながら決めていきます。
当医院では2010年からセレックを導入しており、私の臨床の柱となっています。


■写真2





保険診療でよく使われる金銀パラジウム合金(いわゆる銀歯)のやりかえです。
歯質との境目に虫歯が見えています。
銀歯を外してみると、汚染したセメント(黒い部分)が見えてきました。
汚染したセメントを除去すると虫歯が中にできていました。

これは銀歯が歯と接着しておらず、隙間から唾液とともに細菌が侵入していたということです。
近年のセメントの性能はかなり向上していますが、それでも銀歯と歯質とは「疑似接着」のようなもので「合着」と呼ばれます。
そのために銀歯は取れたりゆるんだりしやすいので、余計に健全な歯質を削って、脱離しにくい形態(複雑な形態)にして「機械的な維持」でなるべく取れないようにします。

この歯はセレックでオールセラミックスを作りました。
6年後の写真です。状態は良さそうです。


■写真3

この患者さんは8年前に当医院で、犬歯にセレックで作ったオールセラミックスを入れられました(赤い⇒)。
ブラッシング不足で歯肉の炎症が少しありますが、おおむね良好です。
その後、この患者さんは他県に転勤され、5年前に隣りの側切歯(青い⇒)に保険診療で硬質レジン前装冠を入れられたそうです。

側切歯のかぶせ物はブラックマージンになっていたり、歯肉にメタルタトゥーができているなど多々問題があります。それより3年古いセレックの方が綺麗です。
セラミックスは表面がツルツルしているので、プラーク(細菌の塊)がつきにくいため、虫歯や歯周病になりにくく、歯自体を長持ちさせることができます。


■写真4


銀歯をやりかえてセレックでオールセラミックスを作った7年経過後の写真です。


■写真5



8年前に当医院で上顎の中切歯(赤い⇒)に2本セレックでオールセラミックスを入れました。
セレックを始めて間もない頃の症例ですが、状態は良好です。
側切歯に他医院で入れた(青い⇒)硬質レジン前装冠のブラックマージンが気になるとのことで、同じセレックでの修復を御希望されました。


■写真6





セレックは2台購入し、これはセレックオムニカムという機種です。
ソフトも最新のバージョンで、計算が速くて便利になりました。

これが3Dカメラです。当医院では直接法しか行わないので、このカメラで削った歯を直接撮影します。
歯型を採って、模型を撮影して作る「間接法」は誤差が大きくなるので私は行いません。
また削った当日にセラミックスを接着させる(即日修復)ことで、接着効果を最大限にすることができます。

セラミックス治療では非常に繊細な「支台歯形成のルール」が必要となります。
そのためにマイクロスコープは私には必需品です。


■写真7




繰り返しになりますが、銀歯はアルジネート(ピンク色の粘土のようなもの)で歯型を採って作るので、あまり適合性が良くありません。
金銀パラジウム合金自体も展延性が小さく(精密に作れない)、またアレルギーの原因になることがあります。
また銀歯にはプラークが付着しやすいため(セラミックスの約10倍)、歯質との段差から細菌が侵入しやすくなります。


■写真8


最後におもしろい写真ですが、この患者さんは他医院で20年以上前に入れたセラミックスが汚くなってきたので、やり替えたいとのことでした。
歯質とのマージン部分には虫歯ができていたので、内部にも大きな虫歯ができているかもしれないと思いましたが、意外や意外、内部にはほとんど虫歯ができていませんでした。
写真は、窩底部にセラミックスの層が一層接着して残っている状態を撮ったものです。
このセラミックスは20年前のセメントでつけられているはずですが、「接着」、つまりセラミックスと歯質が化学結合しているためにあまり適合性の良くないセラミックスでも内部への細菌の侵入が起こらなかったと考えられます。